2010年4月15日木曜日

2010年4月15日号


昨日、丸の内ピカデリーで『第9地区』を観た。
いやはや、すごい映画が出てきたものだ。前評判通りで実に面白かった。
批評めいたことを書く気はない。単純に感想を述べる。ネタバレあり。

この映画は「頭を空っぽにして楽しもうとすると熱湯を浴びせてくる映画」だ。油断すると火傷する。しかしハマれば、サウナから上がってきて浴びるシャワーのように心地よくポカポカ湯上り感が残る。

南アフリカ共和国・ヨハネスブルグ。アパルトヘイトが終わる前にやってきた宇宙人難民。侵略に来たか、たまたま不時着してきたか理由は定かでないにせよ、人類にとって初の未知との遭遇。というようなロマン?は一切なく、招かれざる客は引きこもりで不潔で野蛮な「エビ」だという実際を目の当たりにし、幻想を砕かれた人類は彼らを忌避する。
宇宙人難民を被差別民として、地元住民との衝突、諍い、さらには犯罪との結託まで、人種差別・隔離政策の根源的問題をほとんどやりたい放題に描いている。つまり、見た目で判断しちゃいけないとか、差別はいけないとかそういう当たり前に声高に叫ばれる人権問題を、正に人外の存在である宇宙人に当てはめて、おまえら綺麗事言ってるけど、実際問題こんなことが起こったらどうなのよ?という揺さぶりをかけてくる。
人類と差別の歴史を見れば、この映画の登場人物を笑ってはいられない。被差別民だった移民黒人たちがより下層の存在である「エビ」を猫缶でつって食い物にしていくさまは痛烈なアイロニーが込められている。世界連合とか、白塗りの武器とか装甲車は国連を思わせ、多国籍企業MNUはつまるところPMCというか軍需企業で「人道的見地」とやらにはとんと興味がなく、人体実験に狂喜するような異常さが渦巻く。
第9地区から強制移住させるシーンは悪意たっぷりで、「中絶」のシーンなどホントに悪寒が走る。ヘイトクライムどころじゃない。これはホロコーストじゃないか。それを嬉々としてやっていた主人公ヴィカスがウイルスに感染し、さも当然のように行われる痛覚実験など、どこかで聞いたような話だ。電気ショックで兵器試験に供したりするところは、なぜか『時計じかけのオレンジ』を思い出した。
結局、本編中ほぼ唯一の「真人間」はクリストファーと呼ばれるインテリ宇宙人のみという、全く狂いまくってる現実。ヴィカスが目覚めたものは正義ではなく、追い詰められた生存欲で、恩人とも言えるクリストファーを簡単に裏切る。しかし、ワルくても本質的な部分で善人であるヴィカスは結局彼を助けて、絶望的な戦いに身を投じる。そして最後に彼を救う者は…。
こういう異人種間の協力というと、古典的名作『夜の大捜査線』を思い出す。この場合立場が逆だが。身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ。人間は他者と理解しあえるか、または人は本当の意味で他者であることに耐えられるか、というのがテーマだろう。低予算を逆手に、あくまで1事件、1つのエピソードとして描く方法も評価したい。この手のSF映画にはこういうやり方が合ってると思う。

ま、だらだら書き連ねてはみたものの、要は人間をドカドカ爽快に吹き飛ばし、薙ぎ倒していく正調暴力SFで、動機は少年漫画のようにわかりやすく、ポリティックなメッセージが爽快なバイオレンスギャグで味付けされてる、はっきり言って女性にはオススメできない男の子映画。これが長編デビューとなるニール・ブロムカンプ監督は30歳。いやはや、怪物な才能が世に出てきたものだ。



「必ず捕まえます」→爆発の流れと、傭兵を豚ごとぶっ飛ばすシーンは最高だ!

0 件のコメント:

コメントを投稿