2012年12月31日月曜日

年末年始



年も終わりが近づいてきた。
あまり時間がないが今年観た映画及びアニメなどまとめてみようかと思う。

まずは、映画新作ベスト8

1.『かぞくのくに
あなたが嫌いだというその国で私たちは生きていかなければならない、という言葉が突き刺さる。やるせない怒りなどという通り一遍ではない、歴史を背負った重み。切実な感情を描く上手さが光る。礼をし、抱き合い、手をつかむ、クライマックスの離れがたい別れにはこみ上げてくるものがあった。ラストの聞こえるか聞こえないかの本当に微かな歌も◎。

2.『ライク・サムワン・イン・ラブ
日本男性のどうしようもなさをどうしてここまでゴロッと抉り出すことが出来るのか、どんだけ洞察力が高いんだと脱帽してしまった。本当に唐突に終わるが、映画が語るべきことはそこではもう残ってないので、あれでスパっと終わるのが正解なのだろう。お見事。

3.『ニーチェの馬
天地創造の7日間を遡行していくコンセプト、そこに余計な虚飾は一切必要ないとばかりに徹底した忍耐を求める覚悟を、最後に光が消えていくところまで一貫して押し通す画面の迫力、構図、重みが凄い。まさしく目が釘付けにされ、如何ともし難いモノクロの絶望感がのしかかってくる…

4.『J・エドガー
これって人間は本当に何かを成すことや残すことが出来るのかについての映画なのではないか…「跡」というか。多分それは、愛と信頼、最後に本当に自分らしい告白でも出来れば人生御の字じゃないか、ということ。『ヒアアフター』でもそうだったけど、今作も「手を触れ合うこと」を徹底的に描いている。それは手自体がフレームの外にあるときも、見えないことが重要だったり。あとハンカチを始めとした「身にまとうもの」か。服装が人間を定め、戒め、同時に解放するものでもあるという。エドガーにスーツを着せる母とクライド、一見同じ行為でも込められた愛の形は全く異なる。彼らへのエドガーのリアクションがクライマックスを形作る。母が死に、母の服で母が戒めた女装をして泣き崩れるシーンは痛切な悲しみに満ちているし、クライドにハンカチをつっけんどんに渡してやるシーンは感動的。己が信ずる正義のためなら法を曲げることに微塵の躊躇もないエドガーは、使命感というよりもはや生理といえるほどの偏執的な仕事ぶりで、正しく「権力」そのものになってしまう。だからそれに屈しない人間にはとにかく手こずる。そんな中で育まれるエドガーとクライドとの愛はもう純粋そのものだ。必ず1日1度は食事を共にする誓いや、痴話喧嘩の末のキスシーンとか。半裸のままベッド脇で絶命したエドガーをクライドが毛布で包んでやるラストなどもう泣いてしまうかと。そしてヘレンがシュレッダーでエドガーの秘録を裁断するシーンは正に「葬儀」だ。記録こそは、彼自身が語る真偽定かでない自伝よりも、遥かに雄弁に記録魔としての彼そのものを表していた。だから彼の死と共に消滅せねばならなかった。

5.『旧支配者のキャロル
人が人を潰すことなどできないという信条を持つみゆきは、映画学校のスパルタ講師の女優を主演に迎え、卒業制作に臨む。だが映画に全てを捧げる現場に心身を蝕まれた彼女は、最後に女優から会心の演技を引き出し、事切れる。フィルムを買うのに売春までする映画の奉仕者、それをデジタルでシレッと撮ってる制作側がむしろ一番残酷なのではないか…あらゆるツッコミどころに先回りして解答が用意されている感じ、たまらない。

6.『007 スカイフォール
007を劇場で見るのはワールド・イズ・ノット・イナフ以来、12年ぶりぐらいだが結構面白かった。割と好きな方。ジェームズ・ボンドの死と再生の物語。今回のボンドガール“M”、安らかに。シリーズのネタが散りばめられた緩急のついたつくり。アクションと完璧にシンクロした音楽の一体感が凄い。あのテーマがかかる瞬間はもう…喝采。最後のバトルを地味めに振ったのも○。エピローグは本当にニヤニヤしてしまう。ただちょっとたるいか…2時間に収めてほしいかも。

7.『ダークナイト ライジング
前作があまりにも突出していたためにハードルが高くなりすぎてしまった感はあるが、あくまでシリーズを完結させるという流れの中で娯楽作品として堅実に作ったなぁという印象が強い。私はビギンズもダークナイトも大好きなので全然アリなのだが、意外と否定的な人も多い気がするのは、やはり期待値が高すぎたからだろう。あと、劇場では気にならなかったが、思い返すとやっぱりちょっと長いなぁーと思ってしまった。

8.『へんげ
怪物に変化していく男とその妻、というシンプルな物語を映画として駆動するあまりにも純粋な「夫婦愛」。その暴走に符合してどんどん画面内でエネルギーが高まっていき、規模が厚みを持って巨大化していくところが◎。クライマックスには観客がもう行き着くところまで行ってほしいと願う通り、理想的な極点が訪れる。よく出来た特撮映画。

ほか、今年観た作品で特に印象に残ったのは、
『日本列島』熊井啓監督
『混血児リカ』中平康監督
『色ごと師春団治』マキノ雅弘監督
『阿賀に生きる』佐藤真監督
『激動の昭和史 沖縄決戦』『ブルークリスマス』岡本喜八監督
『ゼイ・イート・ドッグス』ラッセ・スパング・オルセン監督
『バロン』テリー・ギリアム監督
『殺人課』デヴィッド・マメット監督
『ストーカー』アンドレイ・タルコフスキー監督
『セコンド』ジョン・フランケンハイマー監督
『ザ・プラマー 恐怖の訪問者』ピーター・ウィアー監督
(以上観た順)


次に、アニメ映画ベスト8

1.『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q
とりあえず、エヴァ直撃世代(旧劇場版公開&全話一挙再放送当時中1)としては新劇場版は殆ど客観視できない。しかもQは徹頭徹尾シンジ君主観の構造になっているので、全くついていけない人達がいたって気にならない! だからこそ本当にエヴァが好きで良かったと思える、同時代人として至上の幸福感に満たされる。そんなわけで、今年のベスト1。
いろいろと超展開だったけど、ぜんぶ腑に落ちた。ああ、これがやりたかったのねーという納得感。笑い出しそうなほど置いてけぼりを食らう「エヴァ」という麻薬的娯楽にハマると、もう抜け出せない。見れば見るほど、設定の辻褄がパズルのように組み上がっていくのがたまらなく楽しい。またそれゆえに、コレを超えていくのだ!という、悔しい、やられたという気持ちだけでない、何するものぞという誠に清々しい気持ち、爽やかな感動を味わった。完結編が今こそ最も楽しみな作品、エヴァンゲリオンに最大の賛辞を贈りたい。
大歓喜!これが観たかったんだ!誰が何と言おうと、コレは自分の話だ!最高の共感!!!庵野秀明総監督、おめでとう!そして、ありがとう!

2.『ストライクウィッチーズ劇場版
アニメ映画が豊作だった今年、なぜこれが2位かと言えば〈燃える展開〉だったから。堂々とした変態的画面作り、音響の豪華な迫力、全員集合の盛り上がり感、再び復活するヒロイン、そして戦いはつづく!と押さえるところはがっちり押さえた、その中で割と真面目に戦争映画をやろうとしているところ、ぶっ飛んでるが面白い。続編にも期待。

3.『おおかみこどもの雨と雪
今年を代表する良作。アニメーションのクオリティは極まっていて、きっちりまとまっている。脚本も解決不能問題に踏み込みそうな所、うまく回避している。だが、それだけというか…。いつも細田守監督作品を見て思うのは、劇場で見て十分満足してしまうので、あまり見返す気が起こらないということ。その傾向は強まっている気がする。

4.『劇場版 魔法少女まどか☆マギカ
前後編まとめて観たが、いい総集編だった。TV版の要素は総ざらいされており、謎を残さない親切設計は新編への布石としては正解。だが、1クールを4時間にしてるので割と冗長な所もあって、各編でクライマックスが微妙にガチっと起たない感じがもどかしい。杏子・さやかの関係は前後編を跨がず一本で見せて欲しかったなぁ。

5.『映画スマイルプリキュア! 絵本の中はみんなチグハグ!
プリキュア劇場版を観に行ったのはこれが初めて。休日の子供連れに混じって独身男性や女性組などもいる観客比。王道の中に女性らしい感性もあってなかなかいい出来。近年のプリキュア映画の中では大人しいぐらいか。まどマギと同日に観たが、女児を飽きさせない70分尺の中で無駄なくハイカロリーを味わうという点で、こちらの方が優れた映画かもしれないと思った。

6.『虹色ほたる 〜永遠の夏休み〜
全体的には良く出来た映画だと思う。本来は夏休みに公開すべき作品じゃないかと。エピローグのセリフはほとんど要らんと思うが、エンドロール後のテロップに比べたら大した問題では無い。作画はキャラクターが秀逸な画面設計に支えられて躍動するのが見事。終始一貫、求道的なほど動く芝居。ただ所々、やり過ぎで引いてしまうシーンが散見され、う~んと唸ってしまった。

7.『ももへの手紙
過不足なく佳品といった感じ。地味な芝居、アニメーションの追求ぶりは鼻血が出るレベル。脚とか履物が特にスゴい。もちろん表情もシワもとてもいい。個人的に一番ツボだったのはももが畳で仰向けに寝っ転がたまま足の屈伸で進んでくところ。素直に感動するほど構図が上手い。大筋は『となりのトトロ』と比較されるよなぁ…と思ったり。アプローチは全然違うけども。

8.『鉄砲娘の捕物帳
期待して観に行ったのだけれど、あれっ?という感じで終わってしまったのが残念。詰め込み過ぎではないかなぁと。八犬伝自体をはじめから劇中劇構造としてONにした方が良かったのではないか。お江戸版ブレードランナーというには、キャラも背景も情感たっぷりなので、ヒロインの生きる術としての狩りと一期一会の獲物である伏への愛が、あまり切実に感じられなかった。


今年のテレビアニメ・ベスト10

1.『ガールズ&パンツァー
武道系女子スポ根ものに「戦車」を当てはめ、戦闘を徹底的にこだわりぬいて描くことで一点突破の大成功を収めたといえる作品。延期になったが、3月の最終バトルに期待。
2.『坂道のアポロン
ジャズ、即興、セッションというモチーフが見事に結実した作品。7話は特に象徴的。『ちはやふる』もそうだったが、この脚本コンビのテンポと密度は素晴らしい。
3.『夏雪ランデブー
花屋の未亡人に惚れた若い男と死んだ旦那の幽霊、というぶっちゃけ地味な三角関係を非常に丹念に描いている。花と色彩、芝居と舞台を見事に駆動させた演出に拍手。
4.『モーレツ宇宙海賊
最初はがっちり作りこまれていて入りづらいと思ってたがどんどん面白くなっていき、最後まで目が離せなくなっていた。隅々にわたってクオリティが高いのが魅力。
5.『探偵オペラ ミルキィホームズ 第2幕
夏に1期目から再放送してたので見たのだが、まぁこれがメチャクチャに面白い。ひたすらぶっ壊れているようでいて、あまりにも整然とした冷徹な脚本に感嘆。一気見推奨。
6.『夏色キセキ
融通のきかない奇跡に振り回される4人のヒロインたちの夏を通して、いつか終わってしまう青春の日々を爽やかに描いており好感が持てる。脚本構成の勉強になった。
7.『超訳百人一首 うた恋い。
知っているけど知らない世界。歌に込められた想いと悲恋のドラマが、きらびやかでもあり無常でもある時代性を鋭く切り取っており、切なく涙を誘う。小粒だが印象に残る。
8.『神様はじめました
どこか慎ましさすら感じる、古典にも見えるギャグが少女漫画にうまく機能するとこうなる、というアニメ化の見本のような作品。遊び心もたっぷりで見ていて楽しいつくり。
9.『スマイルプリキュア!
これにハマったおかげで人生が再び狂ってしまった。プリキュア、最高。大人がこどもと全力で向き合ってつくる倫理観。逆境をはねのけ泥臭く頑張る少女たちに胸を打たれる。
10.『男子高校生の日常
もう1話から掴まれっぱなしだった。ショートギャグとしての仕立て方も、省略とテンポで畳み掛ける力加減といい、職人的で堂に入っている。

各期二つずつほど選んでるが、次点として『夏目友人帳 肆』『アクエリオンEVOL』『謎の彼女X』『じょしらく』『中二病でも恋がしたい』『となりの怪物くん』などが面白かった。
ちはやふる』は昨年秋のシリーズなので選外としたが、最後まで素晴らしいテンポを保っていた。年明けから始まる2も期待。考えると今年は割と豊作だったのかもしれない。まだ録ったまま見てないものも多いので、折を見て視聴していこう。

テレビアニメは基本的にレコーダの録画で見ることが多くなった。中でも今年からプリキュアにハマりだしたおかげで、400話以上ある全シリーズを再放送で追いかけることになり、ほとんど毎日見てる状態に…まだ四分の三ぐらいしか見てないが、来年春までにはたぶん全部見られるだろう。


皆様 よいお年をお迎え下さい。来年もよろしくお願い申し上げます。