2009年12月31日木曜日

2009年12月31日号




年も終わりが近づいてきた。 
今年見た今年の映画及びアニメ、漫画などまとめてみようかと思う。 


実写映画は、職業的に大量に観るため、
個人ではあまり見ていない状態が例年続いている。

その中で、今年一番の秀作は『グラン・トリノ』 
出色だったのは『アバター』 


グラン・トリノは、 個人的に00年代ベスト1の映画。
 2009年はこれを超える作品は無かった、と言って過言ではない。
近年、ハリウッドの良作・佳作は多いがここまでとんでもない大傑作となると、数は限られる。00年代は『ミスティック・リバー』や『ミリオンダラー・ベイビー』、硫黄島二部作など、とにかくクリント・イーストウッド監督の時代と言っていいほど、数々の傑作がつくられたが、その中でも特にオススメしたい映画。紛う事なき名作で、『許されざる者』と並ぶ最高傑作の一つ。 これを観ずに今年の映画を語るべきではない。真剣に。本当に、この作品について多くを語る言葉を自分が持ち合わせていないということが実に歯がゆい。
まさに圧巻の出来で、現代アメリカ映画として最も優れていると言っていい。監督・主演のイーストウッドの、円熟のさらに上を行く高度な演出、そして堂々たる演技。生と死、戦争、人種差別、世代間の対立と融和、理解と不理解、それら全てをテーマとして内包しながら、重苦しくないという途方もない完成度。 


しかも結構笑える。


鑑賞後は、実に不思議なくらい清々しい気持ちになる映画だった。 
クリント・イーストウッドは御年79歳。来年2月には『インビクタス/負けざる者たち』が控えている。ここまで精力的な映画監督は、他にいないんじゃないだろうか。



アバター 予想外に面白かった。
本当にいい意味で裏切られた感じ。ジェームズ・キャメロンの職人的な、と言うよりほとんど偏執狂じみたコダワリが画面から滲み出してくる。3Dで。ハリウッド最高レベルのVFXと、キャメロンの編集の巧みさが組み合わさって、161分という長尺にも関わらず、映画をとても見やすく入り込みやすいものにしている。ストーリーは、ネイティブ・アメリカンと開拓者の戦いを思わせる、異星人ナヴィ族と開拓団・海兵隊の戦争を軸に、その間で葛藤する主人公という構図。秀逸だと思ったのは〈アバター〉を使いナヴィ族に入り込む元海兵隊の主人公が、下半身不随の傷痍軍人だという設定。これによって主人公の動機が非常にはっきりとわかりやすくなっている。足に不自由がない「偽りの自分」と、足に不自由がある「本当の自分」の間で揺れ動くアイデンティティ。ちょっと『攻殻機動隊』を思い出したが。そういえば、人間がマスクをしなければ入れない森(星)は「腐海」で、その自然と共生するナヴィの村は「風の谷」、侵略してくる海兵隊は「トルメキア軍」か。となると、主人公は「青き衣の人」か。青い肌だけど。とにかく『アバター』は『風の谷のナウシカ』原作版に非常に良く似ているところがある。
メインの見どころは海兵隊戦闘ヘリ軍団と飛行獣に乗ったナヴィ族の空中戦だが、個人的には〈リプリー〉ことシガニー・ウィーバーの登場と〈エイリアン〉なチェイスシーンがポイント高い。面白かったし、劇場で見て良かったと思える作品。



今年見た今年の劇場アニメの中では、 
一番の秀作は『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』 
出色だったのは『サマーウォーズ』
佳作は『交響詩篇エウレカセブン ポケットが虹でいっぱい』 


ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破 、計5回観に行った。
とにかく、万人にオススメできる映画になったという点が「破」の素晴らしいところだ。〈エヴァ〉は今まで、面白いと思っていても、どこか引け目のようなものすら感じていて、万人にオススメ〈したい〉と思う作品ではなかったし、オタク同士で語り合うという枠組みを出ていなかった、と個人的には思っている。それはTVシリーズも旧劇場版も「新劇場版:序」ですらもそうだった。が、「破」は万人にオススメ〈したい〉作品だと胸をはって言える映画だ。


サマーウォーズは〈良くできたアニメ〉を地で行く手堅い印象。細田守監督作品は外さないなぁと改めて思う。個人的に『時をかける少女』の傑出ぶりには今一歩及んでいない感じはする。しかしエンターテイメントに溢れ、現代的な主題にレガシーな家族という解をぶつける心意気が評価できる。何よりヒロインと家長のお祖母ちゃんが良い。メインスタッフの地力が出ている素晴らしい作品。


交響詩篇エウレカセブン ポケットが虹でいっぱいは非常にチャレンジャーな映画。TVシリーズ4クール50話のアニメを使って二時間の劇場版をつくる、という無謀な企画を離れ業の再構成で作り上げている。キャラクターはかなり弄っているし、ストーリーの流れが急激で分かりづらい部分もあり、新規作画で安定していないカットも散見され、画質がばらけていたり、全体として好き嫌いの分かれる作品だとは思うが、こういう挑戦は評価したい。




今年見た今年のTVアニメの中では、 
一番の秀作は『化物語 
出色だったのは『君に届け』
佳作は『けいおん!』 
番外は『涼宮ハルヒの憂鬱』
ほか、いろいろレコーダで録ってはいるが見ていない作品がかなり多い


化物語 、斬新で、画がとにかく綺麗な作品。話の作り自体は…キャラもいいし、言葉遊びは面白いが、然程といった印象。新作アニメがほぼHDで作られるようになって、美術はそのディテールがどんどん追求されるようになり、ほとんど劇場版かと思えるような美麗なカットがTVアニメで多々見られる訳だが、この作品では敢えてディテールを切り捨て、練りこまれたパターンが延々と続くような背景、まるで舞台美術のような、書割っぽい美術が特徴的。1話を見た時、ちょっと『少女革命ウテナ』を思い出した。虚構を否応なしに意識させる〈ボールド〉テロップカットと通常の作画カットでリズムを刻む編集手法は、見ていて心地よい。


君に届け 、ストーリーラインは実に他愛のない話だが、キャラクターの心情描写をひたすら掘り下げている点が評価出来る。原作も、惹かれ合っている筈の二人の意識の差が、すれ違いや亀裂を生んでいくという非常に少女漫画らしい少女漫画で、ぐいぐい引き込まれる魅力がある作品だ。今期では一番ハマっているかも。

けいおん!は、今年の春季スタートアニメの中では大ブレイクし、このほど第2期製作発表されたが、まあどうってことの無いアニメで、普通の出来。日常的な描写に力が入っているのは良かったが、ドラマとしての盛り上げ方が足りない感じがした。佳作だとは思うが、これがそこまで人気になる理由がわからないと言うか……。


番外(にせざるを得ない)のが『涼宮ハルヒの憂鬱』。エンドレスエイトは確かに2009年のアニメに起こった一大事件だった。いつ終わるのかしれないループをリアルタイムで味わっていた一視聴者としては、一話分に編集し直したくなったが、まぁ、自分は脱出回のハルヒの表情が良かったので、概ね許してしまえる気分になったのだが。


2009年は劇場アニメが豊作の年で、TVアニメはあまりパッとしない感じだった。



今年読んだ今年の漫画の中では、 
一番の秀作は、こうの史代『この世界の片隅に』 
前年に引き続き期待のかかる、新井英樹『キーチVS 
以下、今後に期待を込めて
椎名軽穂『君に届け』、桜井のりお『みつどもえ』、片岡人生/近藤一馬『デッドマン・ワンダーランド』、花沢健吾『アイアムアヒーロー』、篠房六郎『百舌谷さん逆上する』、植芝理一『謎の彼女X』、山田秀樹『魔乳秘剣帖』を挙げておこう。



それでは皆様 どうぞよいお年をお迎え下さい。来年もよろしくお願い申し上げます。

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